数週間後、久しぶりに信二に電話を掛けた。


「染井っ⁉」

「ああ、久しぶり……」

「お前、今どうしてる?」


開口一番驚きの声を上げた信二は、予想通り俺のことを心配してくれていたらしい。


「仕事に復帰した」

「そうか、よかった……」

「心配掛けて、本当に悪かったな……」

「なに言ってるんだよ! 俺、ずっと気になってたんだけど、仕事が忙しくて……」


信二は俺と違い、美乃が亡くなった1週間後には仕事に復帰していた。


「今日も残業なんだ。参ったよ」


電話越しの信二が、ため息混じりに笑った。


「大変だな……」

「まぁ、仕事だしな。由加は文句ばっかり言ってるけど……」

「あいつも相変わらず忙しいのか?」

「ああ。俺よりはマシみたいだけど、遅くなる日も多いよ」

「そうか」

「お前の方はどうだ?」

「大変だよ……」


自嘲気味な笑みを零し、ため息をつく。


「なんせ、何ヶ月振りかの復帰だからな。この仕事を始めた時よりも、今の方がきついよ。俺も年なのかもな……」

「バッカ! 俺ら、まだ二十五だぜ? 今からそんなこと言っててどうする⁉」

「うるせぇよ……。電話口で無駄にでかい声出すな」

「あっ、悪い!」


直後に訪れたわずかな沈黙が気まずくて、電話を切ろうと試みる。


「……じゃあ、そろそろ切るよ」

「あ、ちょっと待て!」


だけど、信二にそれを制されてしまった。


「なんだよ?」


自分から引き止めておいてなかなか話そうとしない信二が、なにを言おうとしているのかすぐにわかった。
重い空気が流れ、俺は先に口を開いた。