仕事に戻ると決めたら、なんとなく動けるようになった。
まだやり場のない思いや行き場のない感情もあるけれど、今は考えないようにして部屋を片付け、翌日からはやめていたランニングも再開した。


仕事が始まるまでは、距離も増やすことにした。
走っていれば気が紛れるし、無理にでも空腹を感じさせて食事を摂らないと、あの力仕事はできない。


それから数日後の週明けの朝、親方が約束通り迎えに来てくれた。


「用意ができてなかったら、げんこつでも噛ましてやったのにな!」


親方は俺を見るなり、わざとらしく笑った。
ただ作り笑いを浮かべただけの俺に、親方が少しだけ安堵の表情を見せた。


同僚たちは、俺が突然仕事を辞めてしまったことにも、戻って来たことにも、特になにも言わなかった。
親方から事情を聞いていたのか、それとも別に興味がないのかはわからないけれど、どちらにしてもなにも訊かれなくてホッとした。


何ヶ月振りかの仕事は、想像以上にきつかったものの、その厳しさが逆に俺を救ってくれた気がした。
ヘトヘトになるまで働けば、あとは帰宅して眠るだけ。


余計なことを考えたり、やり場のない感情にずっと振り回されたり……。今までそんなことにばかり費やしていた時間が仕事に奪われたおかげで、自然と余計なことに費やす時間が減っていった。


親方だけは、作り笑いに慣れてしまった俺のことを見透かしていたんだろうけれど、事情を知っているからなのかなにも言われなかった。
心を誤魔化す日々に疲れ切っていたけれど、それでも俺にはそうすることしかできなかった――。