ある日、親方が訪ねてきた。
急な出来事だったけれど、特に驚くこともなく招き入れた直後、親方が目を大きく見開いた。


「お前……っ、なにやってんだよっ‼」


俺の顔と部屋の状態を見て、親方はすべてを理解したんだろう。


「なに考えてるんだっ‼」


生気のない俺を怒鳴り付けた親方から、ため息混じりに視線を逸らす。


「別に……」

「バカやろうっ‼ お前には今、やらなきゃならねぇことがあるだろうがっ‼ 俺に啖呵を切った時の勢いはどうした⁉ あの子がいなくなった途端、こんな風にしかできねぇのかっ!」


親方に怒鳴られても、どうでもよかった。
あんなにも尊敬していた人の言葉すら、なにも響かない。


「言いたいこと言ったなら、帰ってください……」


俺は冷たく言い放ち、ベッドの端に腰掛けた。
親方は帰る気がないのか、俺の前に立ち尽くしていた。


しばらくして、目の前にいる親方をゆっくりと見上げた。
その瞬間、心臓が跳ね上がった。


感情を失ったと思っていたのに、ひどく動揺してしまった。
親方が、その目に溢れそうなほどの涙を携えていたから……。


「お前、どうしちまったんだよ! 泣きもしないで、死んだ目しやがってっ……! あの子は、お前にそんなことを望んだのかっ⁉」


親方は、言葉を失っている俺の両肩を掴み、必死に叫んだ。
真剣な声が痛くて唇を噛み締め、脈打つ心音に眉をしかめる。


「泣いてみろっ‼ じゃないと、お前の心が壊れちまうっ‼」

「あんたに……なにがわかるんだっ……!」


声を絞り出すと、親方は目に溜まっていた涙をボロボロと零した。


「俺があの公園で見たあの子は……確かに幸せそうに笑ってたんだよっ!!」

「……っ!」


俺は、その言葉から逃げるように家を飛び出した。