「あんた、医者だろっ‼ なにしてるんだっ‼ いつもみたいに早く治療してくれよっ……‼」


狂ったように叫ぶ俺の両腕を、信二が後ろから抑えた。


「なにするんだよっ‼ 放せっ‼」

「やめろ、染井っ‼ 落ち着けよっ‼」


無我夢中で抵抗していると、内田さんが口を開いた。


「染井君……。美乃ちゃんが呼んでるわ……」


内田さんの言葉に体を強張らせ、信二に後ろから抑えられたまま動けなくなってしまった。
心臓が大きく脈打って、全身に緊張が走り抜ける。


信二も俺の両腕を掴んだまま呆然と立ち尽くしているのが、背後から伝わってきた。
一歩も動けなかった俺たちは、お互いに寄り掛かるようにしてなんとか立っていたのかもしれない。


だけど、美乃が俺を呼んでいる。
それだけを糧に、力を失くした信二の腕から擦り抜けるようにして重い足を踏み出した。


酸素マスクを外された彼女が、俺の目を見ている。
その顔は穏やかで、優しい笑みを浮かべていた。


「い……おり……」


美乃は本当に微かな声で、俺の名前を呼んだ。


「美乃……っ! お前っ……!」


言いたいことは、たくさんある。
溢れるほどに、伝えたいことがある。


それなのに……なにも言えない。
話し方を忘れてしまったように、言葉が出てこない。


「い、お……り……」


程なくして、彼女がまた微かな声で俺の名前を呼んだ。
その穏やかな笑顔は、今にも消え入りそうなくらいに弱々しかった。


そんな顔するなよっ……!


俺は声にならない思いを、心の中で必死に叫んでいた。