「わぁ〜、可愛い!」


店内は可愛らしく飾られていて、美乃が好きそうな店だった。
俺には少しばかり居心地が悪いけれど、彼女が喜んでくれたことが嬉しい。


「好きな物頼んでいいぞ」


笑顔でメニューを差し出すと、美乃が悔しげに笑った。


「朝ご飯食べ過ぎちゃった……。せっかくだけど、ケーキは無理かな……」


そんな風に言っていたはずの彼女は、散々迷った末にケーキと紅茶を注文していた。


「伊織はやっぱりコーヒーだけなんだね」

「ケーキはもういいよ。昨日食ったあと、気持ち悪くなったし」

「それは食べ過ぎだよ! ふたりで全部食べちゃったんだもん!」


心底げんなりして眉を寄せた俺に、美乃が楽しげに笑った。
彼女は運ばれて来たケーキを嬉しそうに眺めながら写真を撮り、満足そうにスマホを見た。


「由加さんにあとでメールしちゃおっと! あ、ついでにお兄ちゃんにもメールしておこうかな」


その様子を見ながら、つい腕時計に視線を落としてしまう。
夕食までに病院に戻ることが、菊川先生との約束だ。


まだ時間はあるけれど、あまり長時間の外出をすると美乃の負担が大きくなってしまう。
そのため、1時間くらいでカフェを後にして、そのまま俺の家に帰ることにした。


「疲れてないか?」

「平気だよ!」


彼女は薬を飲んで笑みを見せると、体温を測り始めた。
昼過ぎの今、病院でも検温する時間だ。


「うん、平熱。ね、大丈夫でしょ?」


得意げに笑った美乃が、俺にギュッとしがみついた。


「ああ、よかったな」

「うん!」

「なにかしてほしいことがあったら言えよ?」

「もうなにもないよ」


彼女は首を横に振ったあと、ふわりと破顔した。