お風呂から上がったあと、俺は美乃の髪を乾かした。
彼女の髪が靡く度にお揃いのシャンプーの匂いが鼻をくすぐり、ガラにもなく嬉しくなった。


「寒くないか?」

「大丈夫だよ! ありがとう」


美乃の頭を軽く撫で、キッチンで朝食の支度の続きに取り掛かった。
食パンを焼きながら目玉焼きを作り、さっき作っておいたスープも温める。


「いっちゃん、手が空いたらちょっと来て」

「なに?」

「ここに座って?」


不思議に思いながらも、床を指差した彼女に言われた通りに腰を下ろす。


「そうじゃなくて、後ろ向いて」


よくわからないまま、反対側を向いて座り直した。


「じゃあ、スタート!」


美乃はドライヤーのスイッチを入れ、俺の髪を乾かし始めた。


これがしたかったのか……。こういうのもいいな。


作り掛けの料理を気にしながらも笑みが零れ、彼女に与えられる心地好い感覚に神経を集中させてしまう。
髪が乾くまで待ち、そのあとで朝食をテーブルに並べた。


「わぁ〜! すっごく美味しそう!」

「別に普通だろ」

「いつもこんなに作るの?」

「いつもは食パンだけだよ。大体、作ったのって、目玉焼きと野菜スープだけだぞ?」

「それでもすごいよ!」

「まぁひとり暮らしだし、自炊くらいはな。じゃあ、食うか」

「うん! いただきます!」


美乃は弾んだ声で頷いて、野菜スープを一口飲んだ。


「美味しい! 幸せ〜」


途端に満面に笑みを浮かべた彼女を見て、胸がいっぱいになる。


「食べないの?」

「食うよ」

「伊織って、細いのによく食べるよね」

「男ならこんなもんだろ?」


俺たちは、他愛もない話をしながら朝食を平らげ、片付けを済ませた。