額や頬から首筋に唇を這わせ、鎖骨や胸、指先や太股まで、優しく何度もキスをした。
俺の唇が美乃の体に触れる度、彼女は敏感に反応しながら溶けるような甘い声を漏らす。


そのひとつひとつの反応を、頭と心に深く刻んでいった。
美乃を忘れないように、と。


キスを交わしている間は心地好い空間に包まれ、俺たちの体はどんどん熱を帯びていった。


「美乃、恐くないか?」

「うん……。平気……」

「美乃……。愛してる……」

「私も、好きだよ……」


彼女は、俺の目をまっすぐ見つめ、穏やかに微笑んだ。
俺たちは手を繋ぎながら、少しずつひとつになった。


高鳴る鼓動、甘い吐息、絡み合う深いキス。
頭の中はモヤが掛かったように真っ白で、もうなにも考えられなかった。


ただ美乃を抱くことに夢中で、ずっと心で彼女の存在を感じていた。
そして、ようやく心と体のすべてが繋がったような気がした瞬間、冷たい雫が俺の頬を伝った。


「伊織……? 泣いてるの……?」


美乃が俺の頬に触れながら、優しい声で訊いた。


「え……?」


彼女の言葉で、自分が泣いていることに気付いたけれど、どうして泣いているのかはまったくわからなかった。
悲しいわけじゃないのに、知らないうちに涙が溢れ出していた。


ああ、そうか……。俺は感情が高ぶって、心の奥から涙を流したんだ……。


「伊織……?」

「大丈夫……。なんでもない……」


安堵の微笑みを零した美乃も、少しだけ泣いていた。
俺は、彼女の涙にキスをした。


ほんのり感じたしょっぱさと切なさが、胸の奥をギュッと締めつける。
しばらくの間、涙が止まらなかったけれど、美乃はなにも言わずに俺の手を握っていた。


甘く柔らかく、だけどひどく切ない。
そんなふたりきりの夜に、俺たちはたった一度だけお互いを求め合い、時間を忘れて抱き合っていた――。