美乃の髪を撫でながら、額や頬に何度もキスをした。


「眠くないのか?」

「うん、だってまだ九時だよ? それに、せっかくいっちゃんと一緒に過ごせるのに、寝ちゃったら勿体ないもん!」

「そんなこと言って、また熱が出たらどうするんだよ……。もう寝よう」

「いっちゃんがいてくれたら、すぐに下がるよ」


俺がなにを言っても、彼女は眠ろうとはしなかった。
それどころか、他愛のない話をずっとしている。


美乃と話せて嬉しい反面、彼女のことを考えるとどうしても不安になる。
なんとか美乃を説得して、少しでも早く寝かせようとした。


「明日も一緒にいたいだろ? だから、もう寝ような」

「まだ眠くないってば!」

「風邪引くぞ?」

「大丈夫だもん!」

「頼むから寝てくれ。なんでも言う事聞いてやるから……」


途方に暮れた俺は、仕方なくため息混じりにそう告げた。


「なんでも?」


小さく頷くと、真剣な眼差しを見せながら上半身を起こした彼女に、ゆっくりとキスを落とされた。


「抱いて……」


そっと唇を離した直後、美乃が弱々しい声で零した。
目を見開きながら体を起こし、彼女の顔を見つめてしまう。


「なに、言ってるんだよ……」


驚いてそう返すのが精一杯な俺に、美乃が悲しそうに瞳を伏せた。


「だって……いっちゃんは、私を抱いてくれないよね?」

「いや、だって……」

「私の体を心配してくれてるのは、ちゃんとわかってるつもりだよ。だけど、どうしても抱いてほしいの……。きっと、これが……最初で最後になると思うから……」


彼女は、大きな瞳に涙を浮かべている。


「お願い……」


俺を見つめるその瞳から、一筋の雫が零れ落ちた。