「美味しい!」


美乃はシチューを一口食べると、満面の笑みで俺を見た。
何度も「美味しい」と繰り返し、病院にいる時よりもたくさん食べてくれた。


「紅茶でいいか?」

「うん!」


美乃のために買っておいた紅茶を淹れてテーブルに置くと、彼女がケーキを口に運んだ。


「美味し〜いっ! ねぇ、せっかくなんだから、いっちゃんも食べてみたら?」

「え……」

「はい! あーんして?」


苦笑している俺の口元に、美乃がフォークを持ってきた。
仕方なく、苦手なケーキを口に入れる。


「どう?」

「……思ってたよりは美味いかな」

「でしょ⁉」


俺は、そのあとも彼女に勧められ、結局ふたりだけでホールのケーキを食べ切った。
一番小さなケーキだったけれど、それでも一気に食べ切れたことに驚いた。


「片付けはしなくていいから、先に風呂入ってこいよ」

「私、あとでいいよ」

「いいから入ってこい」

「でも……」

「じゃあ、一緒に入るか?」


明らかに遠慮している美乃を笑顔でからかうと、彼女はまた膨れっ面になった。


「いっちゃんのバカ! なんでそうなるのよ!」

「いや、一緒に入りたいのかと思ってさ」

「ひとりで入ってきます!」

「タオルとかそこにあるから、適当に使えよ!」


怒りながら背中を向けた美乃にクッと笑いつつ、彼女の後ろ姿にそう言った。
振り返った美乃は、不服そうにしながらも小さく頷いた。


程なくして、バスルームから鼻歌が聞こえてきた。
シャワーの音に混じって響く彼女の声に、なんとなく落ち着かなかった。


「いっちゃん、ドライヤーってどこ?」

「乾かしてやるよ」


お風呂から上がってきた美乃は、「ありがとう」と笑った。
俺はベッドに腰掛け、前に座らせた彼女の髪を乾かした。