「うわ、危ないって!」


しばらくして、慌てて美乃から包丁を取り上げた。
野菜を切るのはいいけれど、彼女の手つきがとてつもなく危ない。


「大丈夫だよ!」

「ダメッ! 美乃は見学!」

「え〜っ!」

「ちゃんと美味い飯作ってやるから」

「本当……?」

「任せとけ!」


不服そうにしていた美乃に言うと、彼女がまた笑顔になった。


「ねぇ、なに作るの〜?」

「それは、できてからのお楽しみな」


美乃はすぐ隣から覗き込むようにして、俺をじっと見ている。


「そんなにガン見するなよ……。やり難いだろ」

「見学って言ったのは、いっちゃんだよ?」

「だからってなぁ……」

「いっちゃんがかっこいいから、見惚れてるんだよ!」


ふふっと笑った美乃が、俺をからかうように瞳を緩める。


「顔赤いよ?」

「もういいから、こっち見るな……」


戸惑う俺を余所に、彼女はずっと楽しそうにしていた。
そんな空気がくすぐったかった。


料理が完成する頃、インターホンが鳴った。


「悪いけど、俺は手が離せないから出てくれるか? たぶんケーキだから、そこにある俺の財布から金払っててくれ」

「うん、わかった!」


美乃は俺の財布を手にすると、嬉しそうに玄関に向かった。


「いっちゃん! 開けてもいい?」

「ああ」

「わぁっ! すっごく可愛いケーキだね!」


箱を開けて中を覗き込んだ彼女が、表情をキラキラとさせる。


「でも、こんなに食べ切れるかな?」

「無理なら、信二たちにも食ってもらえばいいよ。ほら、こっちも用意できたぞ」

「美味しそう!」

「これでも一応、ひとり暮らしだからな」


俺は得意げな笑みを浮かべ、クリームシチューをテーブルに置いた。
それから、買ってきたフランスパンとオレンジジュースも並べた。