「……綺麗です。俺なんかには勿体ないくらい……」

「ありがとう。いっちゃんもすっごくかっこいいよ」


俺を見つめたままの美乃が、嬉しそうに笑う。
そんな彼女の前で、咳払いをひとつした。


「美乃、これ……」

「え?」


俺はポケットからリングを取り出し、美乃の左手の薬指に着けた。
エンゲージリングとマリッジリングが、彼女の指で光っている。


「給料三ヶ月分には程遠いけど……。一応、結婚指輪な」


そう言って、美乃の頬にそっと触れた。


「……っ、ありがとうっ……!」


彼女は瞳を潤ませ、満面に笑みを浮かべた。


「バカ、泣くなよ。せっかくのメイクが崩れるぞ」


泣くほど喜んでくれたことに胸の奥が熱くなって、それを誤魔化すようにわざと悪戯な笑みを浮かべる。
油断すれば、涙が零れてしまいそうだった。


「お前は毎回、やることがキザなんだよっ!!」


信二は涙を堪えるような顔で笑いながら、俺の背中を叩いた。


「痛いって!」


俺たちは、子どもみたいにじゃれあいながら笑った。
今だけは、ただ幸せな空気が流れているような気がしていた。


写真は美乃とふたりで撮ったあと、全員で撮ることにした。
それこれ指示をされてポーズを決めるのは照れ臭かったけれど、嬉しそうにする美乃のためならためらいはなかった。


写真の出来上がりは後日で、今日は見ることができない。
俺と美乃が着替えを済ませると、信二と彼女の父親は時間を気にしながら会社に向かった。


「美乃、そろそろ病院に戻る時間だから」


それから程なくして、ずっとドレスを見ている美乃に控えめに声を掛けた。


「今日は本当にありがとう! すごく嬉しかったよ!」


俺は、なぜか込み上げてきた切なさを隠し、微笑みながら彼女の頭を撫でた。