夜になると、信二が両親と一緒に病院に来た。
美乃の両親が、俺のことをいつ切り出そうかと考えているのがわかったから、言い難そうなふたりに代わるように自分から話を切り出した。


「聞いたんですよね、俺の仕事のこと。ご心配をお掛けしてすみません」

「いや、私たちはそんなつもりで話をしにきたわけじゃ……。ただ、君はそれで大丈夫なのかい?」


美乃の父親の言葉に、思わず表情が引き締まる。


「何の保障もなく大丈夫だとは言えませんが、しばらくの生活には困らないと思います。それに、自分の意思で決めたことなので、後悔もしてません」

「……額の傷がその証なのかな?」

「えっと、まぁ…」


苦笑いした俺に、すべてを悟ったような微笑みが向けられる。


「そうか……。大変だっただろうね……。ありがとう」


美乃の両親は、それ以上なにも言わなかった。
そのあと、美乃に目配せをしてから、改めて本題を切り出した。


「ご相談があるんですけど……」

「なんだい?」

「どうしたの、そんなに改まって……」

「実は、美乃にウェディングドレスを着させてあげたいんです。とは言っても、写真だけですけど……。許していただけませんか?」

「あのね、私が着たいって言ったら、いっちゃんが着せてくれるって言ってくれたの! いいよね? ねっ?」


懇願する、と言うよりも子どもがおねだりをする時のように両親を見つめる彼女の傍で、俺は緊張していた。
程なくして、美乃の両親が顔を見合わせて微笑んだ。


「もちろんよ、私たちも嬉しいわ。いつにしましょうか?」

「せっかくだから私も立ち合いたいんだが、構わないかな?」

「俺も見たいっ‼」


美乃の両親と信二は喜んで賛成してくれ、俺と美乃は顔を見合わせて笑った。
その日の病室には、ずっと笑顔が溢れていた――。