「ねぇ、ドライヤーもしてくれる?」

「お前、この前怒っただろ?」

「今日は怒らないから! ね? お願い!」


顔だけで振り向いて上目遣いをした美乃に、思わず動揺してしまう。
それを誤魔化すようにため息混じりに苦笑を零して、ドライヤーで彼女の髪を乾かし始めた。


「ねぇ、いっちゃん」

「ん?」

「ウェディングドレスって、綺麗だよね!」

「広瀬のことか?」

「それはもちろんだけど、ウェディングドレス自体が綺麗なんだよ!」

「まぁ、そうかもな」

「いいなぁ……」


すると、美乃がぽつりと羨望混じりの声を漏らした。


「……ドレス着たいか?」


疑問形で言葉を紡いだけれど、答えはわかっていた。
広瀬のドレス選びの時、本人よりも興奮していたから。


「そりゃ、ね……」

「着るか?」


だからこそ、深く考えるよりも先に口が動いていた。


「えっ?」

「ドレス、着るか?」

「ウェディングドレスだよ?」

「うん、そうだな」

「ウェディングドレスって、結婚式で着るものでしょ?」

「別に、前撮りとかもあるんだし、結婚式だけっていう決まりはないだろ」


俺はドライヤーを片付けてから、ベッドの端に腰掛けた。


「本当に着れるの……?」

「ウェディングドレスくらいなら着せてやれるよ。この間の店なら、写真も撮ってくれるみたいだしな」


期待を含んだ表情の美乃に笑みを向けると、彼女は本当に嬉しそうに笑った。


「ウェディングドレスだけは絶対に無理だと思ってたから、すっごく嬉しい!」

「でも、美乃の親が許してくれたらな……」

「絶対に大丈夫だよ! そんな素敵なこと、誰もダメなんて言わないよ!」


美乃は嬉しそうにしながら、信二たちが来るのを今か今かと待っていた。