そっと病室のドアを開けると、奥から美乃が顔を覗かせた。


「ああ、起きたのか」


俺はにっこりと笑って、彼女の頭をポンポンと撫でた。


「うん。さっき内田さんから、みんなが来てくれてるって聞いて……。私、ずっと寝てたから……。ごめんね……」

「そんなこと気にしなくていいのよ、美乃ちゃん。それより、昨日はありがとう」

「体調はどうだ? 朝は親父たちも来たらしいけど、その時も寝てたんだってな」

「うん……。今日は一日中寝ちゃってたかな……。でも、おかげで元気になったよ」


美乃は、広瀬と信二の言葉に苦笑しながら答え、それから俺の顔をじっと見た。


「どうした?」

「どうした、は私の台詞だよ。どうしたの? そのおでこの怪我……」

「えっ? ああ、別に……」


俺はまた曖昧に答え、とりあえず笑って見せた。


「怪しい……」

「でしょ⁉ 私もそう思うんだけど、なにも言わないのよね!」


美乃が疑いの眼差しで俺を見ながら言うと、広瀬も大きく頷いた。


「あ〜……本当に大したことじゃないからさ」

「やっぱりなにかあったんじゃない」


俺の言葉で、美乃はなにか勘付いたらしい。
完全に墓穴だった。


「普通、そんなとこ怪我しないよ? 顔面から突っ込んで転んだなら、別だけど……」

「そう、それ! 今日の現場で顔面から突っ込んで転ん――」

「それ、嘘でしょう?」


しばらくは言うつもりじゃなかったけれど、彼女の疑いの眼差しが痛くて仕方なく話すことにした。


「実はな……」

「うん?」


美乃を見ながら、ゆっくりと深呼吸をする。


「仕事、辞めたんだ」


『狐につままれる』とは、正にこういうことだろう。
三人はしばらくの間、ただ呆然としながら俺の方を見ているだけだった。