片岡さんは行きと同じように、無言のまま帰り道を車で走る。そして――見覚えのある場所で止まった。
「ここ……」
私たちがいつも過ごす、あの河川敷だった。
「少し、いいかな」
「はい……」
車を止めると、私たちはどちらからともなく手を繋ぎ河川敷を歩き出す。
そんな私たちを夕日が包み込む。
「ちょうどこれぐらいの時間だったんだ」
「…………」
「事故にあって、倒れた実穂を真っ赤な夕日が照らしていた。血がどんどん溢れる実穂の身体を……」
「片岡さん……」
でも……と、彼は続ける。
「彼女は君の中で、ちゃんと生き続けていたんだね」
「はい……」
「こんな気持ちで、夕日を見ることが出来る日が来るなんて思ってもみなかった。……翼ちゃん、君のおかげだよ」
そう言うと……彼は私の身体をギュッと、力強く抱きしめた。
「僕はもう一度……人を、好きになってもいいんだろうか」
ポツリと呟いた彼の言葉は、不安そうに震えていた。だから、私は――彼の身体をそっと抱きしめ返す。
伝えたい。私はあなたに恋をした。――ううん、あなたに二度恋をした。
それはきっと……。
「私と私の中の彼女、きっと二人でもう一度あなたに恋をしたの」
心臓の鼓動は、まるでさざ波のように落ち着いている。けれど、私の心が彼を好きだと叫んでいる。
どちらともなく顔を見合わせる私たちを、夕日が優しく照らす。唇から伝わる温もりが、彼の想いを伝えてくれる気がする。
もう夕日は怖くない
この手が一緒にいてくれる
夕日に向かって私たちは、新しい一歩をゆっくりと歩き始めた。