驚いた様子で私を見る片岡さんや実穂さんのご両親に、ぽつりぽつりと今までのことを話し出した。
幼い頃から心臓を患っていたこと、そして――5年前、心臓移植を受けたこと。片岡さんを見ると、実穂さんのご両親やこの家を見ると……胸が締め付けられるように、苦しくなることを。

「確証なんてないんです。でも――もしかしたら、あの日私に心臓をくれたのは……」
「翼さん、と言ったわよね」
「は、はい」

話し終えた私に、実穂さんのお母さんが口を開く。

「少しだけ、待っていてくれるかしら……」

そう言うと……実穂さんのお母さんは部屋を出た。
――どれぐらいの時間が経っただろうか。一枚の封筒を持って、実穂さんのお母さんは戻ってきた。

「これに、見覚えはある……?」
「これ……」

便箋には幼い字で、移植に対するお礼と……これから元気になることに対する希望が書かれていた。
それは――紛れもなく、12歳の私が書いた、あの手紙だった。

「あ……あああ……」

ぽた……ぽた、と涙が溢れる。繋がった。あの日の私と――今の私、それぞれが今、繋がった……。

「あなた、だったのね……」

実穂さんのお母さんの手が、私の手に重ねられる。そして――。

「抱きしめても、いいかしら……」
「っ……はい」

私の身体を、優しく慈しむように抱きしめた。

「こんなに大きく、元気になっていたのね」
「あの日から、外に出て遊ぶことが出来るようになりました」
「お父さんと……この子はどんな子なのか、幼い字だけれど元気になることが出来たのかとずっと気にかかっていたの。でも……こんなに、こんなに元気に生きていてくれたなんて……」

涙が、私の肩を濡らす。背中にそっと手を回すと……実穂さんのお母さんの心臓の音と混じり合って優しく鼓動を鳴らすのが分かる。

「聞こえるわ……実穂の、あの子の心臓の音が。――こんなにも力強く脈打ってる……」
「はい……」

私の身体をそっと離すと、涙を拭いながら実穂さんのお母さんは言った。

「あなたの中で、あの子はこうやって生きている。――あの子の命を生かしてくれて、ありがとう」
「そんなっ……私の方こそ、実穂さんの……おかげで、今をこうやって生きることが出来ています。――本当に、ありがとうございます」

「――翼さん、幸せに……幸せになってください。あの子の生きれなかった未来の分まで、あなたが幸せになってください。必ず……」
「約束、します」

震える声で言う実穂さんのお母さんの肩を、実穂さんのお父さんが優しく抱きしめた。