どれぐらいの時間が経ったのだろう。無言で車を走らせていた片岡さんがブレーキを踏むと、ポツリと言った、
「着いたよ」
その霊園は、見晴らしのいい山の上にあった。
車を降りると、先を歩く片岡さんに着いていく。すると、大野と書かれたお墓の前で彼は止まった。
「――ここだ」
「あ……」
周りのお墓よりまだ新しそうに見えるそのお墓は――彼がかつて愛した人のために建てられたものだった。
「……実穂」
「…………」
「1年ぶり。ごめんな、なかなか来れなくて。――怒ってるかな、それとも……安心したって笑ってるかな」
片岡さんはお墓に――実穂さんに向かって話しかける。少し悲しそうな……でも、優しい顔をして。
「あの日から5年が経ったよ。あの頃まだ19だった俺たちも――もう24だって。笑っちゃうよな」
彼が実穂さんに向かって話しかける度に、心臓が大きく音を立てるのを感じる。
「あの日、実穂に言ったよな。ずっと実穂のことだけが好きだって。これから先も、ずっと――実穂以外好きにならないからって……。でも、あの約束――守れないかもしれない」
ごめん、と片岡さんが呟く。
「俺、好きな子が出来たんだ。――実穂と同じぐらい……ううん、それ以上に大切な子が」
「かたお、か……さん……」
「許してくれるかな……こんな俺のこと……。薄情だって最低だって怒るかな……。でも、俺……この子を泣かしたく、ないんだ。俺が実穂のことを好きな気持ちごと、俺のことを好きだって言ってくれるこの子を……」
気付けば片岡さんは泣いていた。隣に立つ私の手を、ギュッと握りしめながら……。
「だから、俺――」
「……潤君」
「っ……!?」
――その時、片岡さんの名前を呼ぶ声が聞こえた。
慌てて振り返るとそこには……花束を持った女性と男性が立っていた。
「実穂さんの……お父さん、お母さん……」
「――久しぶりだね」
「ご無沙汰、しています……」
実穂さんのご両親は、片岡さんと並ぶ私を見た後……寂しそうな、笑顔を浮かべた。
「彼女、かい……?」
「――いえ」
問いかけられた言葉を、片岡さんは否定する。
間違っていない、間違っていないけれど――。
「でも」
片岡さんの言葉に傷つきそうになった瞬間、私の手が強く握りしめられた。
「実穂さんが許してくれるなら――彼女と、付き合いたいと思っています」
「片岡さん……」
私の方を見ると、片岡さんは優しく微笑む。そんな私たちに――今まで黙っていた実穂さんのお母さんが口を開いた。
「立ち話もなんだから――うちに来ない? 潤君も隣の彼女も、よければあの子にお線香……あげてやってくれるかしら」
顔を見合わせた私たちは、頷くと……実穂さんのご両親の後をついて行った。