待ち合わせ時間の五分前、私の家の前に車が止まるのが窓から見えた。
「いってきます」
玄関の扉を開けるとそこには――片岡さんの姿があった。
「おはよう」
「――おはよう、ございます」
「……じゃあ、行こうか」
そう言うと、彼は助手席の扉を開けてくれる。
――お父さんと徹ちゃん以外の車の助手席に乗るのは初めてで……少しドキドキする。
「よろしくお願いします。
「こちらこそ……付き合わせちゃってごめんね」
申し訳なさそうに言う片岡さんに大丈夫ですよ、と言うと少しホッとしたように彼は息を吐いた。
「それで……今日は」
「――うん」
エンジンをかけると、彼は車を発進させる。
そして、小さな声で言った。
「命日なんだ」
「え……?」
「彼女の――実穂の、命日なんだ」
私の方を見ずに、彼は言う。
「……一緒に、行ってもらえるかな」
「――――」
「あの日以来、毎年一人で行ってきた。……今年は、翼ちゃんに、一緒に行ってもらいたいんだ」
「片岡、さん……」
そう言った彼の顔が真剣で――私は頷くので精いっぱいだった。そんな私に、ありがとう、と言うと……それっきり彼は無言で車を走らせ続けた。