ゴホン、と咳払いをすると徹ちゃんは「具合はどう?」と困ったように笑って言った。
そんな徹ちゃんに曖昧に笑ってみせると――徹ちゃんは勉強机の椅子を引っ張り出して座った。

「顔色は……だいぶ良いみたいだな」
「うん。――心配かけちゃってごめんね」
「いや、そんなことは気にしなくていいんだけど……」

お互いにどこかよそよそしい雰囲気で……どうしていいか分からない。何度も口を開こうとしつつ、結局何も言えずに時間だけが過ぎていく。
どうしたらいいのか……枕をギュッと抱きしめていた私は、ふと視線を感じて顔を上げた。

「――翼」

そこには、真剣な――そして男の人の顔をした徹ちゃんがいた。

「俺にしとけよ」
「徹ちゃん……」
「俺なら泣かせたりしないし、そんな顔させない。幸せにする自信もある。だから――」

椅子から立ち上がると。徹ちゃんはベッドの傍へと近付いてくる。一歩、また一歩と。

「翼」

手を伸ばせば触れそうな距離。今までなら何も気にならなかったのに……。

「翼……好きだ」
「っ……」
「これからも……お前の傍で、お前を守っていきたい」
「徹ちゃん……」

頬に手がのばされる……。

「っ………やっ!」

思わず目を瞑って顔を背けてしまった私の耳に――徹ちゃんの苦笑いする声が聞こえた。

「――そんな顔、するなよ」
「……徹ちゃん」
「なんて、俺が言えたセリフじゃないな。――悪い」

そっと目を開けると……悲しそうな顔をした徹ちゃんがそこにはいた。

「あ……」
「ごめんな」
「――徹ちゃん!!」

背を向けて、部屋を出て行こうとする徹ちゃんの名前を叫ぶ。驚いた顔をして、徹ちゃんが振り返った。

「あの、ね……私――もう守られるだけじゃ嫌なの!」
「翼……」
「今まで守ってもらってきて都合のいい事言ってるって分かってる。でも! 私も――私が今までしてきてもらったみたいに誰かを、あの人を守りたいの!」

そう、徹ちゃんや昴が今まで私を守ってきてくれたように――あの人を、真っ赤な夕日を悲しそうな目で見つめるあの人を……苦しそうな顔で見つめるあの人を今度は私が守りたい。――そう、思ってしまった。

「だから、私――」
「そっか」
「徹ちゃん……」
「翼はもう……守られるだけの――弱いだけの女の子じゃなかったんだな。いつの間にか、その名前の通り……羽ばたいていこうとしてたんだな」

そう言うと徹ちゃんは私の頭をそっと撫でた。

「俺がずっと守りたいと思ってた女の子は――いつの間にか、誰かを守りたいって思えるぐらい強くなってたんだな」
「徹ちゃん……」
「俺のことは気にするな。――もしあいつに泣かされたらちゃんと言えよ? 俺がとっちめてやるから」
「もう……徹ちゃんたら……」

自然と涙が零れ落ちる。それを――そっと徹ちゃんが拭ってくれる。

「バカだな、何泣いてんだよ」
「だって……」
「大丈夫だよ」
「え……?」

優しく徹ちゃんは微笑む。

「翼が誰を好きでも――大切な女の子に変わりはないから。これからも何かあったらかけつけるし、心配もする。――もちろん翼が嫌じゃなければだけどね」
「徹ちゃん!!」

思わず――徹ちゃんに抱き付いてしまう。一瞬驚いたようにビクッと身体をさせた後――徹ちゃんは私の背中を優しく撫でてくれた。

「大丈夫だよ、大丈夫。大丈夫だからな――」

私が落ち着くまで何度も何度も、優しく声をかけてくれる。そんな徹ちゃんの温もりに包まれて私は――いつの間にか眠りに落ちていた。