コンコン、と遠慮がちなノックの音で目が覚める。
「入るぞー」
「あ、うん」
よっ、とドアの隙間から昴が顔を出した。
「大丈夫か?」
「もう平気だよ、ゴメンね心配かけちゃって」
「別に俺は……。ほらよ」
ぶっきらぼうにそう言いながら昴は手に持った袋とプリントを私に手渡す。
「ありがとう」
「――そろそろ、出てくるのか?もう一週間だぞ」
「うん……」
あの日から、片岡さんにフラれた日からもう一週間が経った。
泣きながら眠ったあの次の日から、私は熱を出して学校を休み続けた。決して仮病なんかではなかったけれど……片岡さんのいるかもしれない――いや、むしろわざと来ていないかもしれないあの河川敷を見なくていいと思うと……正直ホッとした。
「それ、クラスのやつらから」
「え……?」
「みんな心配してたぞ」
「そっか……」
「それから――」
言いにくそうに、昴は口を噤む。
「昴……?」
「――兄ちゃんが」
「っ……」
思わず息を呑んでしまう。そんな私に、昴は小さくため息をつく。
「わざとか」
「……ごめん」
「はぁ……」
ベッド前に置いてあったクッションに座ると、昴はベッドに座る私を見上げた。
「なあ、俺が言うのもなんだけど……兄ちゃんじゃダメなのか?」
「…………」
「まあ……ダメだから、こうなってるんだよな」
学校を休んだ日の夕方、徹ちゃんからメッセージが届いていた。私のことを心配してくれている内容だった……。でも、どうしても返事が送れなかった。
――あの時……徹ちゃんの気持ちに、気付いてしまったから。
その後も、毎日徹ちゃんは他愛のないメッセージをくれた。けれど、そのどれにも――返事を送ることが出来なかった。
心配してくれる徹ちゃんからの連絡を見るたびに。片岡さんのことを思いだしてしまう自分がいたから……。そんな私がどんな顔で、徹ちゃんに連絡をすればいいのか分からなかった。それに――。
「今、徹ちゃんに連絡したら――私、ダメになっちゃう」
「ダメに?」
「そう……。今徹ちゃんと会ったら絶対に甘えちゃう。けど、片岡さんにフラれた心の穴を――徹ちゃんで塞ぐようなことは、したくないの」
「翼……」
「だから――」
「だってさ」
「――え?」
昴はドアの方に向かって、声をかけた。
……まさか。
「ごめん」
「――徹ちゃん」
そっと開いたドアの向こうには、徹ちゃんの姿があった。
「昴……なんで……」
「俺が無理やり連れてきたんだよ。――翼。ダメなら、ちゃんとフッてやってくれよ。そうじゃないと、兄ちゃんだって前に進めないんだ」
「…………」
「兄ちゃんも、いつまでもそんな顔でいるなよな。ガキじゃねーんだから。ウジウジするぐらいならきっぱりフラれてこい」
「昴……」
んじゃ、俺帰るから――そう言うと昴は徹ちゃんの身体を部屋に押し込んで扉を閉めた。
残されたのは――気まずい雰囲気の私と徹ちゃんの二人だけだった……。