真夜中、真っ暗な部屋で目を覚ます。
「んっ……」
私――どうしてたんだろう、訳が分からず身体を起こすと……冷たい雫が頬を流れ落ちた。
「なみ、だ……?」
それが溜まっていた涙だと気付いた時――ようやく思い出した。
「そうだ、私……片岡さんに……」
思い出すだけで、心臓をギュッと掴まれたように苦しくなる……。
「っ……」
彼の言葉が、表情がクリアに蘇る――。
「かた、お……」
次から次へと溢れ出す涙を、止める術を私は知らない……。目を閉じれば彼の笑顔が思い出される。その度に、枯れることのない泉のように涙が頬を濡らしていく……。
絶対に上手くいく、そんなことは思ってなかった。けど……彼の笑顔があまりにも優しくて――少しぐらいは期待してもいいんじゃないか、なんて思ってしまっていた。でも……。
「好きな人……いたんだ……」
どんな人なんだろう、彼にお似合いの私より年上の女性?私みたいにうるさくなくて、彼の隣にそっと佇んでいるんだろうか。趣味は?どこに住んでいるの?次から次に湧いてくる疑問。――でも、待って?そもそも……。
「私、彼の……何を知っているんだろう」
彼の好きな人のことを思い描こうとするけれど、私が知ってる彼なんて名前と年齢と……それと――。
「いつもあの河川敷で夕日を見ていることだけ……」
――けれどその理由も、知らない……。
「ばっかみたい……」
自嘲気味に笑ってみる。けれど、溢れ出す涙は止まることはない。
次から次へと溢れ出しては頬を伝って制服を、手を、ベッドを濡らしていく。――まるで自分の想いを否定しないでと……心が叫んでいるかのように。
「うっ……く……」
止めどなく流れる涙と一緒に、この気持ちも流れてしまえばいいのに――何度もそう思うけれど……どんなに消えてほしいと願っても、彼への思いは消えることはなく――結局私は、空が明るくなるまで泣き続けていた……。