「あ、れ……」
気が付くと、ベッドの中にいた。
「私――」
「目、覚めた?」
「徹ちゃん……?」
月明かりに照らされて、ベッドの傍に徹ちゃんが座っているのが見えた。
「あの後ずっと眠ってたんだよ」
「そう、なんだ……。ごめん、ついていてくれたの?」
「おばさんが、今日どうしても外せない用事があるからって――おじさんが帰ってくるまでの間だけ、俺がついてることにしたんだ」
「そうなんだ……ごめんね、迷惑かけちゃって」
身体を起こすと、おでこに置かれた濡れタオルが落ちた。あれ、そういえば――。
「私、パジャマ……?」
「っ……お、俺じゃないからな? おばさんがちゃんと着替えさせてくれて――」
思わず尋ねてしまった私に、慌てた様子で徹ちゃんは否定する。そんな徹ちゃんの姿が可笑しくてつい笑ってしまうと、つられたように徹ちゃんも笑う。
ひとしきり笑った後、徹ちゃんは私の名前を呼んだ。
「なあ、翼」
「ん……?」
「お前、もしかして――」
「どうしたの?」
徹ちゃんが真面目な顔で私を見ている。こんな徹ちゃん、見たことない――。
ううん、あの日の……あの車の中で見た表情に似ている気がする。怖いぐらいに真剣な、徹ちゃんの顔……。
「――いや、なんでもない」
「…………」
「まだ少し熱があるからあまり無理せずにゆっくりな。――おじさん帰ったみたいだから、俺も家に戻るよ」
一階からバタン――と扉を閉める音が聞こえる。徹ちゃんの言う通り、パパが帰ってきたみたいだ。
「徹ちゃん……」
「――そんな顔するなよ。明日もしんどいようなら休むように。もし行くなら――俺が車で学校まで送ってやるから、遠慮なく言えよ?」
「うん……徹ちゃん、ありがとう」
お礼を言う私に、徹ちゃんはいつもみたいに優しく笑った。そして、おやすみと言うと私の部屋を出て行った。
目まぐるしく一日が終わる。
片岡さんのことも徹ちゃんのことも、気になることはたくさんあるのに……私は――ベッドに横になると、もう一度眠りに落ちた。