片岡さんと別れた帰り道、気持ちはこんなに弾んでいるのに何故か身体が重くてダルい。一歩踏み出すのにいつもの何倍も体力を使っている気がする。
「まずい、かも……」
片岡さんの言う通り、本当に具合が悪くなってきているのかもしれない――。とりあえず、少しでも早く家に帰ってベッドに横になりたい……。
でも……。
「ちょっとだけ、休憩……」
少し歩いたところにあるバスの停留所に設置されたベンチを見つけると、壁にもたれかかるようにして座った。その瞬間、身体が鉛のように重くなるのを感じた。
「ううう……早く帰らなきゃいけないのに……」
せっかく明日の約束を――初めての約束を片岡さんとしたんだから……。だから、明日は何があっても行かなければいけない。なのに……。
「動けないよ……」
もう一歩も動けない――。
そうこうしている間に、ポツポツと雨が降り始めるのが見えた。
「雨だ……」
足元のすぐ傍を雨のしずくが濡らし始めるのが見える。
「やむまでの間なら……ここにいても、いいかな――」
誰に言い訳をしているんだろう……。けれど、独り言のように呟いた言い訳に返事が聞こえた。
「ダメだよ」
「え……?」
「家に、帰ろう。翼」
そっと目を開けた私の前に、優しく微笑む徹ちゃんの姿があった。
「――とおる、ちゃん?」
「バカだな、翼……。こんなになるまで……」
「どうし……」
「帰ろう、翼。無理しすぎだよ」
そう言うと徹ちゃんは、ベンチの上に投げ出した私の身体をそっと抱き上げた。
「ちゃんと掴まってるんだよ」
「ん……ありがとう」
ギュッと徹ちゃんの肩に腕を回すと、その胸に頭を埋める。
――徹ちゃんの匂いだ。
「っ……」
「徹ちゃん?」
「なんでも、ないよ……」
顔を上げようとした私を優しく制止すると、徹ちゃんは歩き始めた。
振動が伝わらないように優しく、優しく歩く徹ちゃん。
――そんな徹ちゃんの足が、一瞬止まった気がした。
「…………」
けれど、徹ちゃんは何も言わず再び歩き出す。私は徹ちゃんの心臓の音を聞きながら、いつの間にか眠ってしまっていた――。