「はあ、退屈。今度はいつ学校に行けるのかな」

 何度も繰り返される入院生活。学校に行くよりもはるかに多い病院で過ごす日々。

「早く退院出来ると良いなぁー」
「そうだね。じゃないとみんなに忘れられちゃうよ」
「う……」

 ベッドの横で漫画を読みながら、昴(すばる)が意地悪なことを言う。

「こーら、そんなこと言わないの。大丈夫だよ、きっとみんな翼(つばさ)の事待ってるよ」
「徹(とおる)ちゃん……」

 そんな昴をたしなめてくれるのは、いつだって優しい顔で私たちを見守ってくれる徹ちゃんだった。

「兄ちゃんは翼に甘いからなー」
「昴ほどじゃないけどね」
「別に俺は……!」

 生まれた時からずっと一緒にいる昴と徹ちゃん。
 私と同じ12歳の昴は、同じ月の同じ日に生まれて以来、まるで兄妹のように育ってきた。たまにいじわるを言うけれど、でも本当は優しいのを私は知っている。
 そんな私たちより11歳も年上の徹ちゃんは、いつだって私たちを守ってくれた。強くて、かっこよくって大好きなお兄ちゃん。
 心臓が弱くてみんなと同じように学校に通えない私を、二人がずっと支えてくれてきた。今だって仕事で両親が傍にいられない時にはこうやって、時間を見つけては病院まで会いに来てくれている。
 大好きで、まるで家族みたいに大切な二人だった。

「ねえ、徹ちゃん」
「うん?」

 ジュースを買いに行ってくる、と昴が部屋を出て行ったあと……私は徹ちゃんに尋ねた。

「徹ちゃんは……知ってるんだよね。今回の入院が、最後になるだろうって言われてること……」
「――それは……っ」
「良いの、聞いちゃったんだ。ママとパパが話してるの。私が寝てると思って……二人が……」
「…………」
「私――もうすぐ死んじゃうん、だよね……」
「そんなことない!医者なんて最悪を想定して一番悪いことを言うから……!」
「……徹ちゃん」

 くそっと吐き捨てるように言うと、徹ちゃんは私に背中を向けた。
 ごめんね、徹ちゃん。
 パパもママも私にはなんにも言ってくれない。
 ただ大丈夫だから、と微笑んで……いつだって影で泣いてるのを私は知っていた……。

「ドナーさえ見つかれば……」

 吐き捨てるように、徹ちゃんは言った。

「ドナー?」
「そう、そうしたら翼は元気になれるんだ」

 そう言いながら徹ちゃんの表情が曇った訳を、この時の私は分からずにいた。