今日も私は河川敷へと向かっていた。この間の徹ちゃんの態度が気にならないと言えば嘘になる。でも……それよりも今は、あの人に会いたい。会ってどうしても確かめたいことがあるんだ。

 ――いた!

 いつもの場所にあの人の――片岡さんの姿を見つけると、私は彼の名前を呼んだ。

「片岡さん!」
「やあ、翼ちゃん。こんにちは」

 優しく微笑んでくれる片岡さんを見ると、胸がキュッと締め付けられるのが分かる。
 どうしてもその胸の痛みの正体が分からなくて友人に「理由が分からないの。――どうしてだと思う?」と尋ねてみたら……呆れたように笑って言われた。

「そりゃあんた、その人のことが好きなのよ」

 好き?
 私が――片岡さんを、好き?

 たった二文字の言葉が頭の中をぐるぐるとまわる。ここに来るまでに何度も何度も考えて――それでも答えが出なかった。本当に? 友人の勘違いじゃないの? 私が、片岡さんを……?

 そんな心の中の疑問は片岡さんの姿を見た瞬間、まるでその答えを初めから知っていたかのように、はっきりと分かった。分かってしまった。

 ああ、私――本当にこの人のことを、好きになっていたんだ……。

 どうして今まで気付かなかったのか。心臓発作とは違う胸の痛みは、こんなにもこの人のことを好きだと私自身に伝えて叫び続けていたのに。

「どうかした?」

 片岡さんの姿を見つめたまま動けずにいた私を、不思議そうに見上げる。
 そんな仕草にすら、ドキドキする。

「翼ちゃん?具合でも悪いの?」
「い、いえ。大丈夫です!」

 慌てて取り繕うように笑いかけると、不思議そうな顔をした後で首をかしげると片岡さんは笑った。

「変な翼ちゃん」

 年上のはずの彼のそんな姿に、どうしようもなく胸がときめくのを感じる。 ああ、ダメだ……。

 大好きだ……。私、この人のことが――大好きなんだ。

 気付いてしまったら、もう後には戻れない。隣で笑う片岡さんの姿を見るたびに、すぐ傍で聞こえる声を聞く度に、胸が大きくときめくのを感じる。