逸る気持ちを抑えながら、早足にならないように気を付けて河川敷への道のりを歩く。
 今日もあの人は――片岡さんは、来ているだろうか。

 ――いた!

 私に気が付くと、片岡さんは優しく笑いながら手を振ってくれる。そんなあの人の姿を見ると、相変わらず心臓がキュッと締め付けられるように甘く痛む。

「こんにちは!」
「こんにちは。今日も来たんだね」
「片岡さんこそ」

 最初こそこの痛みに戸惑うこともあった。心臓発作の苦しさとは違う、でも確かに感じるこの胸の痛みに――。でも、今なら分かる。これは……。

 きっと――。

「ん?」
「いえ、なんでもないです」

 不思議そうな顔をして、私を見てくる片岡さんに笑いかけると隣に並んで座った。
 片岡さんは視線を戻すと、沈み始める夕日をじっと見つめた。

 あの日から毎日のようにここに通ったけれど、もちろん片岡さんが来ない日もあった。時折ふらりと現れて、何をするでもなくここから――沈む夕日をずっと眺めていた。飽きることもなく、ずっと……ずっと。
 どうして、と尋ねてみたかった。けれど、夕日を見つめる片岡さんの表情が苦しそうで――そんな片岡さんを見るたびに簡単に立ち入ってはいけないのだと、そう思い知らされる。

「片岡さん……」
「ん?なんだい?」
「あ……」

 思わず口に出していた私に片岡さんはどうしたの?とこちらを向く。先程までの表情とは違って――優しい顔をしていた。

「えっと……そういえば、片岡さんはいくつなんですか?」
「俺? 24だよ。翼ちゃんは――高2だから17歳?」
「まだ誕生日が来てないので16歳です。あ、でももうすぐ17歳になります」
「そっか、若いなー」
「片岡さんだってまだまだ若いじゃないですか」
「そんなことないよー」

 他愛もない話をする。私が笑うと、片岡さんも笑ってくれる。
 それだけでいい。こんな風に笑いあえるまでになったんだから――。
 そう思うけれど……。

 また、だ……。

 会話が途切れた瞬間に見せる、表情は――先程と同じく苦しそうなもので……。その表情を見るたびに、近くに感じた片岡さんとの距離が、とてもとても遠く感じた……。