あの日から一週間。みんなが練習に行ってしまった放課後、私は運動場で走る昴や友人たちを横目に校門へ向かって歩いていた。
最初は文句を言っていた昴も、クラスメイト達と楽しそうに走っているのが見える。
「よかった」
その姿にホッとしながら私は、真っ直ぐに目的地へと向かって歩き出した。
「――いない」
しばらく歩くと目的地であるあの河川敷に着いた。けれど、そこには誰の姿もない。
「今日も来ないのかな……」
あの人のことを思い浮かべる。それだけで、少し胸が苦しくなるのを感じた。
たった2回しか会ったことのないあの人――。なのに、何故だろう。思い出すたび、心臓が少しだけ苦しくなる。息を満足にすることも出来なくなって動悸が早くなる。
「もう一度会えれば、何か分かるかと思ったのに……」
普段はもう起きることのない発作。なのに何故あの人に会うと――あの人のことを思いだすと、発作が起きた様に苦しくなるのか……その理由が知りたかった。
だから昴と帰らなくなってから一週間、毎日待っていた。ここに来れば、会えるかもしれないと思って――。
でも……。
「あの日から一回も……」
私は土手に荷物を置くと、草むらに座り込む。まだ日は高いけれど、その内また夕焼けがやってくる。
大丈夫、とは言ったもののやっぱり夕焼けが少し怖い。今日もまた夕日が沈み始める前には帰らなくちゃ……。
「何で会えないのー……」
膝に頭を埋めるようにして小さく名前を呼んだ。
「片岡さん……」
「はい?」
「っ……!?」
突然聞こえたその声に、心臓が跳ね上がるのを感じる。思わず顔を上げると――そこには、あの人の……片岡さんの姿があった。
「え、あ、な、なん……」
「えっと……大丈夫? また苦しくなっちゃったの?」
「い、いえ! 大丈夫です!」
私の隣にしゃがみ込む片岡さんは、心配そうな顔をしていた。
「でも……」
「ほ、ホントに! その、天気がよかったので休憩してただけで……」
苦しい言い訳。でも、あなたが通りかかるのを待ってました――なんて、ストーカーのようなこと言えない……。
「そっか、ならよかった。通りかかったら君が蹲ってるのが見えて、また苦しくなってるのかと思ったよ」
もう少しで救急車に電話することろだった――そう言ってスマホの画面に表示された119の数字を見せながら片岡さんは笑った。
「ホント心配かけちゃってすみません……。あ、あとありがとうございました!」
「ん?」
「この前と……最初の時と。どっちも片岡さんに助けて頂いたから……」
「そんなの、気にしないで。元気そうな姿を見られて安心したよ」
「片岡さん……」
優しく微笑む片岡さんの姿を見ると、やっぱり胸が苦しくなる。でも――この痛みは、発作の時の苦しさとはどこか違う気がする。
この――どこか甘くて切ない胸の痛みはいったい……。
キュッと締め付けられるような痛みを感じながら私は、隣で笑う片岡さんの姿を見つめ続けた。