放課後を知らせるチャイムが校内に鳴り響く。
教室から廊下へと、一斉に生徒が溢れる。

僕はゆっくりと廊下を歩きながら、すっきりと晴れ渡った空を眺めた。再び、いつも通りの日常を過ごす幸せを感じた。

男は無事捕まった。
かすみちゃんと沙希、そして僕は警察に保護された。
みんな、幸い大きな怪我もなく、三日間の自宅療養をした後、今日ようやく登校した。

警察には、事件の真相をそのまま語るわけにもいかず、佐藤ヒロシのことと、もちろん僕の能力のことは伏せた。
通り魔に襲われた女子ふたりを僕が救出しようとしたところ、僕自身も攻撃されてしまった。意識を取り戻したときには通り魔も気を失っていた……そんな説明には、警察も首をかしげるばかりだったが、それ以上話のしようもなかった。

その後捜査がどう進んでいるのかはわからない。
が、、、ニュースの続報によると、あいつは、なんと! というかやはりというか、世間を騒がせていた連続通り魔事件の犯人だったらしい。

あの日以来、力は使っていない。
――その力、二度と使うな。
最後に放たれたあの言葉が、重く僕の心にのしかかっている。

事件後、僕たちが登校したとき、すでに佐藤ヒロシはいなかった。どうやら、事件の翌日には、ひっそりとどこか別の町の学校へと転校してしまったらしい。

昇降口に着くと、上履きを脱いだ。それを下駄箱へ収めようと身を屈めたとき、後ろから声をかけられた。
「あの……」
体を起こしながら振り返ると、目の前にかすみちゃんが立っていた。スカートの前でカバンを持ち、俯いていた。
「お礼が遅くなって、ごめんなさい」
僕は突然の彼女の言葉に動揺した。返す言葉も見当たらないまま、棒のように立っていた。

「あのとき、もしかして、わたしのこと助けてくれたのって」
「いや、僕は……」
急に心臓の鼓動が早まった。
「夢を見てたのかな……、でも、あなたが必死にわたしを……」
「いや、僕はなにもできなかった。君のこと、救いたかったけど……、僕じゃないよ」
ここで恰好つけたって、しょうがない。本当のヒーローはほかにいるから。
「……救いたかったって、その気持ちだけでも、ホント、うれしい。ありがとう」
あの日のことを彼女がどこまで覚えているのか、僕に対してどう思ってるのかはわからないけど、でも……、その一言が僕を勇気づけた。
「それじゃ」
かすみちゃんは軽く会釈すると、急いで靴に履き替えて、小走りで外へ向かった。
僕は彼女の踊るように跳ねるうしろ髪をしばらく見つめた。

                                
                              おわり