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 このノートを最初に読んでくれたのは誰だろうか?
 ここまでお付き合いいただき、ありがとう。
 つたない文章ではあったかもしれないが、これが私の半生記である。

 他人の記憶を消去するという、数奇な力を手にした男の、哀れな半生だ。

 私は今年で四十になる。

 もう、ここらで私はこの稼業を廃業しようと考えている。

 きっと、記憶消去師――嫌なことイレーサーの同業者に滅多にお目にかかれないのは、こんな風に彼らもまた次々に廃業していくからだと思う。

 私は、私の運命に耐えられない。

 もう全てを忘れようと思う。――自分の力で。自分の手で。

 この手記のペンを置いたら、私は私の首の後ろに手を回すことにする。

 いつかこのノートの読者に出会ったとしても、私は書き手としての私を思い出すこともないだろう。