夫人はあまりにも突然の襲撃に甲高い悲鳴を上げて、尻もちをついた。

 ホテルのドアマンが慌てて彼女を捕縛しようとするも、彼女はそれをするりとかいくぐった。

 大股でホテルの入り口を通り抜け、ロビーへと進んできた。

 まるで獣だ、と私は思う。
 敵をなぶり殺そうとする、獰猛な獣だ。

――ああ、ややこしいことになった。

 掌から汗がダラダラと流れているのが分かる。
 手だけではない。背中からも、額からも。全身から噴き出るようにして汗が流れ出している。

 どうづる、どうする。

 私の中の私が、しきりに声をかけてくる。

 冷静になれ、冷静になれ――

「いつも通りの仕事」をすればいいんだ。

 その通りだ。

 私は、もう一人の自分の助言に、首肯する。



 今度こそ、これで終わりにしてしまえ。





 彼女の全ての記憶を、リセットすればいいのだ――。





 そう思うが早いか、私の足は動きだしていた。すっかり理性を欠いてしまっている彼女の首へと、私は手を伸ばし、ひっつかんだ。




――もう、これで終わりだ。