それが何故ここに置きっぱなしなのかと言うと……。
届ける事が出来なかったからだ。緑青いうちに。
あれは、あの事故の日、私が母にあげる為に用意したもの。
手紙を添えて一緒に渡そうと思っていたのに、当日あろうことか肝心なそれらを忘れて出掛けてしまった。
朝水やりをするためにベランダに出して、そのままだったのがいけなかったのだ。
置いて行かれた緑は、事故を免れて。
だけど、兄は死に、私もいない数週間……世話してくれる人に恵まれず、両手に乗る程の小さな観葉植物は枯れてしまった。
渡せなくなった鉢と手紙。
事故後、何度も実家へ行こうとしたけど、なかなか出来ないでいる。せめて手紙だけでも、と思っても、渡せない。行く決心と勇気が、揺らいでしまっているせいだった。
「優子? どうした?」
「お兄ちゃん……まさか……」
「え?」
「お兄ちゃんの心残りって……私の事?」
「……」
哀しそうな微笑みが、全て教えてくれた……。
実は私、実家の親とは少し気まずかったりする。
理由は数年前の上京。
猛反対する両親と大喧嘩のすえ、ほぼ強引に決行されたそれだ。
その時は、こじれる仲を心配した兄が、私と一緒に暮らす事を両親に提案し説得してくれて……。
結果、難しい問題を抱える事もなく、兄に頼りっぱなしの独り立ちを果たした私。
だけど、その代わりに親との仲はぎこちなくなった。
大喧嘩の時のわだかまりが、自分だけ、なかなか抜けなかったからだ。まあ、私が一方的にぎくしゃくしてるだけといえば、そうなんだけど……。
母は、しょっちゅう荷物や手紙を送ってきてくれた。
あんなに反対してたのに、手紙には「身体に気を付けなさい」とか「頑張ってね」とか書いてきたりして。
そんな母に「ありがとう」の言葉すら、返す事が出来ないでいる。頑固で素直じゃない性格が、見事に災いしてた。
気が付けば時ばかりが過ぎ、仲直りのきっかけを完全に見失ってる状態。