でもそれじゃ、駄目だ。
「お兄ちゃんが死んじゃったのは悲しいよ。もっと一緒に居られると思ってたし。だけどさ、死んじゃったお兄ちゃんが成仏出来ないでこの世に残ってるのは、もっと悲しい。お母さんとお父さんも、知ったらきっと悲しむ……」
「……優子」
「あんなに優しかった息子なのに天国に行けてないって、もっと苦しくなっちゃうよ」
ただでさえ、失った悲しみに苦しんでいるのに。
縋りたい唯一の想像世界にすら、救いを感じられなくなってしまったら……。
「お前って本当、兄思い親思いの良い奴だなぁ」
兄は笑った。穏やかな微笑みで。
抱えていた白いクッションを見つめると、それを私にポンと投げた。
「優子は俺の自慢の妹だよ」
「お兄ちゃん……」
「俺なんかより全然優しい良い子でさ。思いやりもあるし明るいし、結構美人顔でモテるし」
「ほ、褒め過ぎじゃない?」
「頑固で素直になれないのが、致命的だけど」
「……」
持ち上げられた瞬間、落とされたぞ……私。
でも、本当の事だから何も反論できない。
頑固で素直じゃないのは、自分でもよくわかってる。
結局、兄の心残りについての話は進まず。
上手く煙に巻かれた感がするのは、気のせい?
成仏する気あるのかな、お兄ちゃん。
そう思い兄を見ると、兄は窓の外、ベランダを眺めていた。
レースのカーテン越しに見える植木鉢は、本来は部屋の中にあるべき観葉植物のもの。
外に置き去りにされたそれは、枯れて見るも無残な姿になっている。
私は、水やりが少なく手入れしやすい観葉植物ですら、枯らしてしまう女。……苦手なのだ。花木を育てるのは。
逆に、それが大好きなのはうちの母親だ。趣味はガーデニング。実家の庭は花だらけで、部屋も緑と様々な色で溢れてる。
勿論、観葉植物だって家のそこらじゅうにあった。
あのベランダの枯れた鉢は、本当だったら元気に育ってるはずだった。ここではなく、実家でだけど。