それから数日。

 兄はやっぱり定位置のソファーの上で、のんびり過ごしていた。幽霊がのんびり寛いでいる姿は……どう考えてもおかしい。

 しかも、兄が座るパステルブルーのソファーは、青空をイメージして私が選んだもので。白いふわふわのクッションは雲みたいだと何個か購入した品だ。

 ひとつは枕に、ひとつは抱え、残りは足元。

 空と雲を想像させるそこに呑気に寝そべってる幽霊の兄は、シュールすぎてツッコむ気にもならない。

「ねぇ、お兄ちゃんの心残りって何なの? それ解決しないと成仏出来ないんでしょ?」

「うーん……何だろうなぁ」

「はぁ?」

「生きてる時って、まさか自分が今日死ぬかもとか考えないだろ? 後で良いやって先送りしてきた事とか沢山あったし……どれが幽霊になった原因かなんて、解らないっていうか……」

「成仏しない位の心残りだよ? すっごい大きい事に決まってるじゃん! 解らないなんて絶対無いよ」

 兄は「うーん」と唸った。

「彼女を独り残してしまった事とか?」

「お兄ちゃん彼女いなかったじゃん」

「友達に貸したDVDの今後とか?」

「友達よりDVD!?」

「冷蔵庫にあったプリン……賞味期限近かったんだよなぁ。供えて貰ったら、俺食えんのかな?」

「……もうとっくに賞味期限切れだよ。てか、怒るよ!? 真面目に考えてないでしょ!」

 兄は私の言葉にヘラッと笑った。

 笑うと目尻に皺が出来て、良い人そうな顔が増々良い人になる。生前と全く変わらない笑顔を目の前にすると、今こうして一緒にいる事が凄く変な気がした。

 夢なのか現実なのか、わからなくなりそうだ。

「優子こそ、何でそんなムキになってるんだよ。幽霊の兄貴は面倒だから、早くいなくなってほしいのか?」

 ソファーの上で兄が少し複雑そうな顔をした。

 そんなわけないじゃん

 呟く。

 居て欲しいに決まってる。

 家族が死んだなんて認めたくない。幽霊でもいいから、そこに存在していて欲しいって、思う。