研究室あがりで経営には興味がなかった彼が、才能で会社を発展させた。
実業家だ経営者だと名乗る人間に接する機会はあるが、渕脇は別格の違う人種だ。

「連絡を取ってあげようか」
「はい。ぜ、ぜひ!そのうち。今は心の準備ができません」

真吏にしては消極的な発言だ。
それだけ慎重に行動したいということのようである。
パフェを完食し店内を改めて見回した。

「マスターは、どうしてここでお店を開いたんですか?」

志鳥はパフェ皿を下げると、真吏の前にミックスサンドの皿を置く。

「ここの店、建物のオーナーは古い友人でね。有道と秀道はそいつの孫なんだが、老衰で亡くなった」

ビルと店を買い取り改装して店を始めたが、鷹人一人だけのはずが少年二人(?)も引き取ることになり、共に暮らしているのだという。

「独身男がいきなり三人の子持ちになった。いやあ、きつかったね」

志鳥は笑っていたが、並大抵の苦労ではなかったと思う。
しかしそれぞれクセのある男子たちではあるし、普通の人間が育てられるとも思えない。

特徴を理解しているからこそ一緒に暮らしていけるのかもしれないが、志鳥自身も相当な変わり者だ。

志鳥は喫茶店の店主であるが、医学、工学博士号を取得しており医師免許も保有している。
それはヒューマノイドに人工皮膚や組織を使用する場合、医療行為とみなされるからだ。
渕脇忠行も同様である。

「おれの場合、飾りの免許だからな。世間で数をこなして専門に働いている奴等には、かなわない」

この飾り気のない性格が義理の息子三人に影響させているのだと、真吏は思う。

「今は猫もヒューマノイドもいて。子だくさんですね」

志鳥は嬉しそうに頷いた。

「華先生の話だと猫も犬も、先祖は同じだっていうし。人型ヒューマノイドだって胚から造られているんだから、似たようなもんさ」

志鳥の中では犬も猫もヒューマノイドも人間も全て、ひとくくりの生物のようだ。
恋人とうまくいかず別れたと云っていたが、志鳥のせいだと真吏は思う。
ふとテレビ画面を見るとワイドショー番組が流れていて、最新型ヒューマノイドの発表とプレゼンテーションの様子が映し出されている。
真吏はヒューマノイドについて、かねてからの疑問を訊ねた。