真吏の執筆したスクープ記事を掲載した週刊誌の発売まで、あと五日である。
彼女は自宅マンションのデスクでパソコン画面と向かい合っていた。
書類やファイルの類がデスクや部屋の隅々に積まれ山になっていおり、真吏と整理整頓という言葉とは全く逆の方向を向いてる関係であるらしかった。
その資料まみれの室内で、彼女は殺害された少年についての記事を更にまとめていたところで、改めて概要を見直す。
勝部晴久はヒューマノイド工場の社長をしている。
彼の父親は優秀で先祖から受け継いだ工場で安定した経営を行っていた。
親会社であるバーナ重工の渕脇忠行のようにはいかなかったが、それでも彼は努力し、従業員を抱え小さいながらも営んでいた。
学生時代の彼は志鳥、渕脇同様、ヒューマノイド工学高等大学へ進学したが成績は振るわず、なんとか大学を卒業した後、実家へ戻った彼は父親のヒューマノイド修理工場の専務に抜擢される。
それは公私混同はなはだしく晩節を汚し社員の不振を買った。
父親は彼を溺愛の眼鏡でしか見ておらず、視界を狂わせ有無を云わせない。
周囲は従うしかなかった。
やがて父親が引退し亡くなり彼が社長となる。
外の世界を知らずわがまま放題に育った勝久は残虐で凶悪な、どす黒い感情を確実に育てていく。
しかしそれを朗らかでにこやかな仮面で隠し、表に出すことはなかった。
志鳥と、特に渕脇には負い目を感じていた。
「地方の工場社長とグループの社長。あいつの傘下からは抜けられない。くそっ……」
彼は紆余曲折しながらも妻を迎え息子を一人儲ける。
そして父親からそうされたように、彼も息子を溺愛していた。
それ自体に問題はなかったが彼を自分の後継者として決めたあたりから、何かが狂っていく。
勝部晴久がビジネスの才能は皆無であったのに、それでも工場が運営できていたのは先代からの人間がフォローに走り立ち回っていたからだ。
勝部に侮蔑した眼差しが向けられ、やがて人員が一人また一人と去っていき、苛立ちとぶつけようのない怒り、逆恨みを胸に秘めたまま時は流れていく。
そんな父親の胸の内を人間の形にしたのが彼の息子だった。
金はあるし何も困ったこともない。
だが彼は苛立っていた。
工学高校卒業後、大学へは進学せずに父親の工場に入社した。
そして少年と同じく入社した被害者の少年。
彼が後の被害者である。
手先が器用で飲み込みも早く、彼はみるみるうちに上達していく。
穏やかな人柄でやや内向的な部分があったが、それも彼の魅力だった。
社長と息子に辟易していた社員たちは、こぞって彼を可愛がった。
「教えれば教えるほど学び覚え、上達していくヤツだったよ」
「実はヒューマノイドなんじゃないか、とかさ。よくからかわれていたな」
それほど物覚えは良かったらしい。
プログラミングも得意で簡単なロボットを作ったりして、周囲とも打ち解け日々邁進していたらしい。
事務員として入社した同い年の女の子とも交際を始め、若いカップル誕生に周囲は穏やかに微笑ましく見守っていた。