「ただいま」


数分で家に着くと、玄関ではいつものようにツキが「ニャア」と出迎えてくれた。


可愛らしい鳴き声に癒やされた瞬間、ホッとしたせいなのか一気に疲労感が襲ってきて、ツキを抱き上げてその顔に頬ずりをした。


「ツキだけが私の癒やしだよ……」


猫は気まぐれだなんて言われているけど、いつだって大人しいツキは私の行為に抵抗する素振りも見せずに付き合ってくれる。


クロとのやり取りに疲れたせいか食欲がなくて、抱いたままのツキがご飯を食べたことを確認してから自室に行った。


明日、どうしよう……。挨拶なんて誰にすればいいんだろ……。


友達がいない私は、同じ委員会や隣の席になった子と必要な会話をする程度の交流しかなくて、もちろん他愛のない話をできるような相手なんていない。


彼は簡単そうに言っていたけど、挨拶をしてから他愛のない話を振るなんて考えただけで気が重くなる。


『千帆自身に努力する姿勢がないなら千帆は一生なにも変わらないよ』


それでも、彼の厳しい言葉が忘れられなくて、どうすればいいのかと思考を働かせる。


今はまだ“変わりたい”なんて強くは思えなくても、せめて“一生なにも変わらない”という不安だけは拭いたかったから――。