「で、でも……」


せめてもう少し時間を与えて欲しいと伝えたいのに、クロの真剣な瞳に言葉を奪われてしまう。


「仕方ないだろ、あんまり時間がないんだから。のんびりしてたら一ヶ月なんてあっという間だぞ」


そんな私に放たれたのは、私たちが約束した“期間”のこと。


頭がそれを理解した瞬間、なぜか胸の奥がチクリと痛んだような気がした。


「最初から無理って言うな。とにかくやってみるんだ。いいな?」


拒否を許さない真っ直ぐな視線に思わず頷いてしまったあとでハッとしたけど、残念ながらもう遅かったらしい。


「よし。明日、頑張れよ」


彼は私を見つめたまま笑顔で言うと、慌てたように立ち上がった。


「帰ろう。送ってあげられないけど、大丈夫か?」


「……平気」


「あっ、気をつけて帰れよ!」


淡々と答えて歩き出した私は、クロがどうしてあんなにも時間を気にしているのかを考える余裕もなくて、彼の声にも振り返ることなく公園を後にした。


たった一日でどうしろって言うのよ? いきなり話せるわけないじゃない……。


チクリと痛んだはずの胸の奥はもうなんともないけど、足早に歩きながら明日のことばかり考えてしまうせいで気が重くなり、何度もため息が漏れた。