「松浦千帆ちゃん」


「え?」


耳を疑ったのは、優しげな声音で零されたのが自分の名前だったから。


大きく見開いた瞳には、目の前の男性が映っている。


「な、んで……」


どうして私の名前を知っているのかと訊きたかったのに、驚きのあまりそこで言葉に詰まってしまった。


和らいだはずの恐怖心がまた色濃くなり始めていると、少しだけ困ったような笑みが落とされた。


怖いはずなのに。


間違いなく、不安になっているのに。


私を見つめる瞳にどこか懐かしさにも似たようなものを感じ、逃げ出すことができない。


「俺、超能力者なんだ。君のことなら、なんでも知ってると思うよ」


ゆっくりとした口調で発された内容に、思わず口が開いた。


「……は?」


なにこの人……。超能力者って言った? 頭おかしいんじゃないの?


「……すみません、急ぐので」


さっきまでとは違う意味の恐怖心を抱く傍ら、バカげた発言のお陰で冷静になれたらしく、淡々と言いながら踵を返したけど……。


「ええっ!?」


直後、視界がグラリと揺れた。


「待って!」


「わっ!?」


全力で走り出そうとしていた私は、男性に引っ張られたせいでバランスを崩してしまった。