一睡もできないままやってきた朝は体も心も重くて、洗面台の鏡に映った私はひどい顔をしていた。


気持ちを引き締めるために数回余分に顔を洗ってからリビングに行くと、父と母が揃ってダイニングテーブルに座っていた。


「おはよう」と口々に言った両親に、胸の内を悟られないように精一杯微笑む。


「おはよう」


ダイニングテーブルに並べられたクロワッサンにカフェオレ、ベーコンエッグとサラダは寝不足の体には少しばかり重く思えたけど……。


「いい匂いだね」


温められたことで香ばしい匂いを漂わせるクロワッサンが私のお気に入りのお店の物だとわかって、並んで座っている両親の前に笑顔を崩さないようにして腰を下ろした。


「千帆、お誕生日おめでとう」


「おめでとう。さぁ、食べようか」


私がお礼を言うよりも早く手を合わせた父の態度は、もしかしたら照れ隠しだったのかもしれない。


母と顔を見合わせて苦笑を零し、「ありがとう」と言ってから両親とツキと一緒に朝食を食べ始めた。


バターの風味がしっかりと感じられるクロワッサンをかじると、口の中に優しい甘さと香ばしさが広がっていく。


食欲はなかったけど両親に心配をかけたくない一心で、なんとか完食することができた。