数分もしないうちに無情にも雨はやみ、クロはホッとしたように笑って先に外に出た。


「ほら」


重い腰を上げるようにして四つん這いでさっき通ったばかりの場所を戻ると、土管から顔を出した私の目の前に彼の手が差し伸べられた。


少しだけ悩んだ末に、左手を伸ばす。


今まで自分から取ることのなかったその手は大きくて熱くて、しっかりと握られた手から熱に侵されていく。


ドキドキしながら外に出た私は、その温もりを少しでも長く感じていたくてゆっくりと立ち上がったけど、クロは私が無事に立ったとわかった直後にパッと手を離した。


「一気に涼しくなった」


通り雨だったらしく、雨雲に覆わていた夜空はすっきりとした景色を見せている。


だけど、左手に感じていた彼の温もりが離れてしまったことに切なさを抱く私の心は、代わりに雨雲に覆われたように重く暗くなっていた。


「もう、こんな時間か」


クロに促されていつものベンチまで戻ってくると、噴水の傍に立っている時計を見上げた彼がぽつりと零した。


二十一時までは、残り十五分。


あっという間に貴重な時間のうちの四分の三が過ぎていたことに悲しくなって、雨で濡れた地面に吸い寄せられるように俯きながら唇を噛み締めた。