言葉を探すことを忘れかけていると、不意に頭に温もりを感じた。


それがクロの手のひらだと気づいた時には、頭をポンポンと優しく撫でられていた。


「……なに?」


咄嗟に疑問を口にしながらも、話しかけておいて黙ったのは自分自身だったことを思い出してハッとしたけど……。


「なんか、撫でてほしそうだったから」


彼は瞳をそっと緩めると、優しい表情で私を見つめた。


途端に鼻の奥がツンと痛んで、瞳の奥から溢れ出しそうになる熱をこらえるために歯嚙みした。


唇を噛み締めないようにしたのは、クロに泣きそうになっていることを知られたくなかったから。


咄嗟の判断を下せた自分自身をよくやったと褒めたけど、眉を下げて困ったような笑みを浮かべた彼にはバレていたと思う。


それでも、どちらも決してそのことに触れようとはしなかったのは、そこに触れてしまえば私が涙をこらえられないことをお互いにわかっていたからなのかもしれない。


「雨、やみそうだな」


独り言のように落とされた声が響き、頭の上にあった温もりが離れていく。


さっきよりも泣きたくなったのは、今日の別れが近づいていることを感じていたからで、どうせなら雨が降り続けてくれればいいのに、なんて思ってしまった。