「結構降ってきたな」


落とされた言葉が反響するように耳に届き、まるで全身がクロの声に包まれたような気がした。


無意識のうちに右手で掴んでいた左の手首には、まだ彼の熱が残っている。


それを意識した途端に体の奥から熱が込み上げてきて、息の仕方を忘れてしまいそうになった。


「すぐにやめばいいけど」


右側に座るクロは、心配そうに外を見ている。


ほんの少しだけ手を伸ばせば触れられるほどの距離にいるのに、強まり続ける雨ばかりを気にする彼の心はやけに遠くにあるように感じて、切なさが溢れ出してしまいそうだった。


「ねぇ……」


その横顔に振り向いてほしくて、なにを話すか決めていないまま発した声は僅かに掠れていた。


「ん? どうした?」


続く言葉を考えていなかったせいで、唇はなにも紡げない。


程なくして「寒いか?」と訊かれて首を横に振ると、クロは瞬きを数回したあとで不思議そうな顔した。


「どうした?」


優しい眼差しに見つめられ、胸の奥がキュンと鳴く。


切なくて切なくてたまらないのに、それでも心はこうしてときめいてしまうなんて……。


「千帆?」


初めて知った感覚に戸惑う私は、柔らかな声音に包まれながら泣きたくなってしまった。