「すごいな。一ヶ月前の千帆からは想像できない成長だ」


出会った頃は振り回されていることに戸惑い、些細な言葉にすら何度も苛立ちながら言い返していたのに、今はこうしてクロの声が聞けることが嬉しい。


「そうだね」


だから、どんな言葉でもいいからその優しい声音を聞いていたくて、彼が話してくれるようにしたかった。


「クロは夏休みとかないの?」


「……さぁ」


「さぁ、って……」


「そんな顔するなよ」と苦笑したクロが、私を見つめたまま続けて口を開いた。


「じゃあ──」


「それも質問事項に加えておくよ、でしょ」


ため息混じりに彼のセリフを奪うと、気を取り直したように向けられていた笑顔が苦笑に戻った。


「いつも同じセリフなんだから、わかるよ」


答えてもらえないとわかっていながらも質問してしまったのは、なにかひとつでもクロのことを知りたかったから。


だけど、結局はまた悲しくなっただけで、呆れたような顔で平静を装いながらも胸の奥が締めつけられた。


「千帆、あのさ……」


不意に真剣になった声音に心臓が小さく跳ねた時、クロが「あ……」と零した。


「雨だ」


そのまま独り言のように落とされた言葉通り、頬に冷たい雫が落ちてきた。