「ごめん。待った?」


首を小さく横に振ると、クロは安心したように笑った。


時計はちょうど二十時を示していて、今日も変わらずにいつも通りの時間に現れた彼にまた寂しさが募った。


ベンチに腰掛けるクロを見ながら、やっぱり彼と私の気持ちには距離があることを思い知る。


「今日はどうだった?」


「え?」


沈む気持ちを抱えていた私は、ぼんやりとしていたせいでクロの言葉にきょとんとした。


「学校だよ。楽しく過ごせたか?」


彼は僅かに苦笑したあと、いつものように微笑んだ。


まるで父親みたいなことを訊くクロの唇から、何度これと似た質問が紡がれただろう。


それらを聞けるのも明日で最後だと思うとさらに切なさが大きくなり、最初のうちは鬱陶しくてたまらなかったことが嘘のように思える。


「……普通だけど」


「そうか」


呟くように答えた私に、彼が安堵の色を混じらせた笑みを零した。


「堀田さんと中野さんと、今日も色々話した?」


「うん。夏休みの宿題をいつするか決めたよ」


“普通”ということが、一ヶ月前と今の私にとってどれだけの変化になっているのか。


それをわかっているからこそ、クロはホッとしたように笑っているのだと思う。