進路を訊かれた時は、あと十日で会うこともなくなるクロには関係ないと思ったのに……。


今は逆に、彼との別れが迫っているという事実を改めて自覚したことで心の天秤が僅かに傾き、自分の口から話すべきなのではないかと感じ始めていた。


忘れることはできないけど、掘り返したくはない過去。


それをクロに話すのはとても勇気が必要で、無意識のうちに握っていた拳に力が入り、不安と緊張で心臓がバクバクと鳴っていることに気づく。


「千帆」


同時に、嫌な汗がじわりと滲むのを感じて彼から視線を逸らそうとすると、まるで私の気持ちを察するようなタイミングで優しい声が耳に触れた。


「大丈夫。千帆はもう、変わり始めてる。だから、ちゃんと向き合えるよ」


穏やかな面持ちと柔らかい声音で落とされた言葉に、不安と緊張が包み込まれていく。


負の感情を完璧に取り除くことはできなかったけど、心の奥底で眠っていた勇気がゆっくりと動き出したような気がした。


「……本当にそう思う?」


「思うよ」


迷うことなく紡がれた答えに、まだ揺れていた心の天秤がそっと止まる。


「だから、千帆の口からちゃんと聞きたいと思ったんだ」


そして、小さく頷いた私は、意を決して口を開いた。