一行分を写すのには一分も必要なくて、綺麗な字で書かれた文字と自分のノートを確認してから、帰り支度をしていた堀田さんに声を掛けた。


「あの……」


「あぁ、終わった?」


「う、うん。あの、本当にありがとう」


頭を下げて両手でノートを差し出すと、ひと呼吸置いてから彼女がぷっと吹き出した。


「たかがノートくらいで、そんなに頭下げなくても」


顔を上げると堀田さんがふふっと笑っていて、予想よりも遥かに優しい反応をもらえたことにホッとして口元が綻んだ。


「あっ」


「えっ?」


「なんだ、笑えるじゃん」


その言葉が私に向けられているのはすぐにわかったけど、どんな反応をすればいいのかわからない。


「松浦さんが笑ってるとこ、初めて見たかも」


そんな私からノートを受け取った彼女は、梅田先生が教室に入ってきたことに気づいて前を向いた。


「ショートホームルーム始めるわよー」


先生の声が聞こえてきても、私の心はなんだか落ち着かなかった。


だって、誰かにノートを借りたのなんて、三年以上振りだったから。


普通なら別に珍しくないことだけど、同級生から物を借りるのは久しぶりだった私にとっては、心がくすぐったいような気持ちになる時間だった。