「あっ……」


声がため息に変わり、ひと呼吸置いてシャーペンをノートの上に置いた。


ちゃんと書き取れなかったのは、授業中に余計なことに思考を使っていた自分自身のせい。


ノートを借りる友達すらいない私は、テスト勉強に差し支えがないことを祈りながら諦めるしかなかった。


「ねぇ。……ねぇってば。松浦さん」


再びため息をついたあとに隣から堀田さんの声が聞こえてきたけど、まさか自分が呼ばれているとは思っていなくて反応が遅れ、ようやく名指しされたことで顔を上げた。


瞬きをしながら彼女を見ると、視線がぶつかった。


「え? ……私?」


「うん。ノート、取れなかったんでしょ? よかったら見る?」


頷いた堀田さんは、当たり前のようにノートを差し出してきた。


「え?」


突然の申し出に驚きのあまりにきょとんとしてしまい、彼女を見ている瞳は瞬きを繰り返す。


「いいの……?」


「いいよ。だって、あと一行でしょ」


親切にされることに慣れていない私は、向けられた優しさを前にして戸惑いを隠せなかったけど、わざわざ開いてくれたノートを受け取った。


「あ、あの……ありがとう」


おずおずとお礼を口にすると、「別にいいよ」と小さな笑みが返された。