ピタリと止まった、後ろ姿。


数秒の間を置いてもう一度振り返ったクロは、無言のまま瞬きを繰り返している。


その顔は驚きを表していて、私を言い包めてばかりの彼には似合わない表情だった。


「まっ……また、明日!」


なんの台詞も用意していなかった私が口にしたのはほんの少しだけ先の約束で、自分からそんなことを言うなんて信じられなかったけど……。


クロが夜に吸い込まれるんじゃないか、なんてバカげたことが脳裏を過ったせいで、明日の約束を取りつけたくなってしまったのだ。


別にどうでもいいと思っているはずなのに、立ち去る彼の手を掴みたくなったのはどうしてなのだろう。


自分自身の感情に戸惑った私は、いつものようになにも言えなくなってしまう。


だけど……。


「千帆」


次の瞬間に視界に飛び込んできたのは、とても嬉しそうな笑顔。


自然と零されたような笑みに、たしかに胸の奥が高鳴って、直後に鼓動がトクントクンと鳴り始めた。


「また、明日」


優しく緩められたままの瞳に心を奪われそうになってハッとすると、クロはもう背中を向けて歩き出していた。


そんな彼の後ろ姿を見つめながら、自分の中のなにかが変わっていくような気がしていた──。