「俺を拾ってくれたのも、千帆みたいに優しい人だから」


それはきっと、悲しい過去をほのかに匂わせた話。


それなのに、クロは幸せそうに微笑んでいて、私の方が泣きそうになってしまった。


「なんで千帆がそんな顔するんだよ」


彼が自分自身のことを少しだけ話したあの時と、まったく同じ言葉が紡がれる。


無意識のうちに出ていた表情は、たぶん悲しみを孕んだものだったのだろう。


自分自身が今どんな顔をしているのかも、その表情になった理由もわからないけど……。


「あなたのことも話してよ」


不意にクロのことが知りたくなって、自然とそんなことを口にしていた。


途端に瞳を見開いた彼は、心底驚いたように言葉を失っていた。


私自身も自分の台詞に驚いていたけど、もともと私のことばかり知られているのは不公平だという気持ちがあったから、それが改めて強くなったのだと思うことにした。


だけど、程なくして苦笑したクロは、「残念だけど」とため息混じりに零した。


「もう時間だから。俺も帰らなきゃいけないけど、千帆の親だって心配してるんじゃないか?」


「でも……」


今聞かなければ話してもらえないような気がして渋っていると、すぐに彼がふっと微笑した。