墓穴を掘らないように無言で様子を見ていると、クロが口を開いたけど……。


「千帆の猫……ツキってさ」


またツキを猫呼ばわりされたことにムッとすると、彼はすぐに私の様子を察したように言い直した。


「ツキがなに?」


クロがツキのことを名前で呼んでくれたことに納得して、眉間の皺を緩める。


すると、彼は安堵の色を浮かべた顔で笑って、私を真っ直ぐ見つめた。


「どんな奴?」


「え?」


ツキのことをそんな風に訊かれるとは思っていなくて、少しだけ驚いてしまった。


そんな私のことを笑顔のまま見つめているクロが、続けてゆっくりと口を開いた。


「可愛い?」


思わず瞬きをしてしまったのは、彼から“可愛い”なんて単語が出てくるとは思っていなかったから。


クロは、私がツキに対して友達や家族のように接していることに否定的なのだと感じていたから、可愛いかと尋ねてきたのは予想外だったのだ。


「可愛いに決まってるでしょ」


「どういうところが?」


きっぱりと答えると、矢継ぎ早に質問が飛んできた。


彼が突然ツキのことに触れたのは不思議だったけど、大好きなツキのことを話すのは嫌な気はしない。


だから、私は素直に口を開いていた。